わたしのズボンの裾に、
どこからか迷い込んだ一匹のカナブンが落っこちた。
びっくりして振り払うと、パニックになったカナブンは
逃げ場なく蛍光灯のまわりをブンブンと飛んでいた。
生まれ育ったであろう土地から、
何も知らずに電車で遠く運ばれ
ひとりぼっちで暮らしていくんだろなあ
などと思ってたら少し切なくなった。
でも多分本人は孤独だなんてちっとも思っていないし、
「何も知らずにかわいそう」
なんてメルヘンな妄想は、わたしの勝手なエゴだ。
カナブンは上手いこと扉の前に着地していた。
「次、扉が開いたら上手く逃げて、幸せに暮らしておくれ」
と願った矢先、
目の前にいたおっさんがグシャリと踏み潰して、
カナブンの一生は終わった。
上に敷かれた新聞紙が
到着駅に着いてもなお、ひらひらと揺れていた。

